
くも膜下出血治療の実際
目次
くも膜下出血など、異変を感じたらまずは救急車に連絡を
筆者は、医師ではないのであまり強く言えないのだが、読者の皆様にお願いしたいことがある。
頭痛があるなどして今現在くも膜下出血の可能性がある、もしくはくも膜下出血につながるリスク(高脂血症、動脈硬化等)があるとご自分で認識されている方は近々、受診をしていただきたい。
思い当たることの無い方でも年に1回は脳ドックを受けてみることをお勧めする。
脳の病気は、あなたが恐れているように、大変危険なものだ。
脳の疾患の多くは放置して自然治癒するものではないと言われている。
受診を躊躇っている場合ではない。
筆者は先年祖父を亡くしたが、その原因が脳出血であった。
検視医の見立てでは、既に何度か発作が起きていたのが、その朝もっとも大きな発作となって亡くなったのだろうと言う事であった。
前日までは普通に生活していた人が突然失われるのが突然死と言うものなのである。
脳疾患の最悪の結末、突然死を防ぐためには、発作が起きた時どうしたらよいのだろうか。医学の知識がない素人にできることは限られている。
119番に連絡すること。
そして救急隊が来るまで、患者の生命や意識レベルを維持することである。
応急処置やAEDの扱い方は、各自治体の消防局などが出す情報が分かりやすいので目を通しておかれるとよいだろう。
何よりも大事なことは、自分や周り人の変化に気が付くこと。
今までは何もなかったのに、突然痛みや悪心を訴えた場合、放置せず受診することをすすめていただきたい。
くも膜下出血の疑いがある患者にしてはいけないこと
くも膜下出血の発作の中でも比較的大きなものが起きた場合、患者は意識を失って倒れることがある。
その際、居合わせた人は患者と自分の安全を確保して、救命処置に即座に入るべきである。
浴室は、血管性疾患の発作が起きやすい場所のひとつである。
意識を失ったがための溺死も起りうるので、体調が悪いと思ったら、入浴を取りやめる、血管性疾患のリスクが高い人は他の家族の後に入る(湯温や室内の空気の温度は1番湯の時は不安定になる。
若くて元気のいい人が最初に入り、病気がちな人は2番目ぐらいに入ると事故率が下がると言われている)と言った工夫をしていただきたい。
自分の身近な人が目の前で倒れた時の驚きは相当なものだ。
もし、そのような状態に陥ったら、落ち着いて周りを見渡してみてほしい。
助けてくれる人が良そうな場合は大声で叫ぶこと「病人です、救急車を呼んでください」と。
では、もし他に誰もいなかったら。
自分以外にその人を助けられる人がいなかったら、どうしたらよいのだろうか。
その時は自分ひとりで処置をするしかない。
「必ず私が助ける」と声に出して処置を行なおう。
応急処置をする際にしてしまいがちなことは意識レベルを確かめるために、相手の身体を揺さぶると言うことである。
他に身体が冷たいから摩ると言った行動もとってしまいがちだが、血管性の疾患の発作はこれらの行動で増悪することがある。
意識があるか確認したい場合は軽く頬を叩くか、手の甲や胸を軽くつねり、痛み刺激を与える方法が正解だと言われている。
意識がない場合はすぐ、心肺蘇生法を。
くも膜下出血の検査
医師と言うのは自分のところにやってきた患者をみると、まず重い病気ではないかと疑い、幾つかの検査をしてようやっと診断名をつける生きものであるようだ。
刑事は「疑うのが仕事」だと言われるが、医師もまた疑うのが仕事である。
患者の訴えに耳を傾け、症状からいくつかの診断名を導き出し、その病気だと絞り込むために検査をする。
救急救命センターの医師などは物の数分でこの流れをたどり処置をしてしまうのだから、頭が下がるとしか言いようがない。
一般に、くも膜下出血の検査には、画像による診断が用いられる。
場合によっては、くも膜下出血に特徴的だと言われる脊髄液への血液の滲出を鑑別するために脊髄のくも膜に針を通して髄液を採取する腰椎穿刺と言う検査をすることもあるそうだ。
痛い検査であることで有名だが、病院によっては局所麻酔をかけるところもあるそうである。
人によっては、穿刺を受けた後に神経が下がることによって頭痛が出ることもあると言われている。
不安な人は主治医と相談して、納得してから検査を受けてほしい。
当人が倒れて自分の意志を示せない場合は家族が名代を務めるようにする。
脳の画像を使って診断する方法には、CT、MRI、MRAなどがある。
名は知っていても、各々どんなことをするか分からない、混乱してしまうと言う人も多いようだ。
CTは放射線(健康に害のない程度のものなので心配ない)を用いて脳の断面を輪切りにした画像を移す機械。
制度が大変高いことが特徴だ。
MRIは磁気を用いて画像を撮影する。
MRAはMRIと同じく磁気を利用して、脳血管の様子を立体的にコンピューター画面に再現する手法。
小さな動脈瘤なども見つけやすいのが特徴だ。
くも膜下出血の手術
運悪くくも膜下出血を発症した場合は早急に救急救命とその後の外科処置が必要になる。
MRI、CTなどによる画像診断の後、麻酔、メスを入れることになるが、くも膜下出血の手術とはどのようなものなのだろうか。
くも膜下出血が起きた場合、医師がすることは主にふたつの手順がある。
まず頭蓋内に生じた血の塊(血腫)がある場合、それを取り除く。
この手順は開頭手術となることが多い。
次に、もうこれ以上脳内で出血が起きないように、出血した部位および出血しそうな部位を何らかの手段でふさぐ。
くも膜下出血の手術の種類は、この塞ぐ行為を何で行うかによって変化する。
くも膜下出血に使われる手術法としてオーソドックスなものには、「クリッピング術」「動脈瘤コーティング術」「トラッピング術」がある。
トラッピング術は、動脈瘤につながる動脈への血流を止め、人工的に作った血管に血流を誘導するバイパス術を行う手術であり、技術的にも難しく時間もかかるため、よほど派手な発作が起きない限り行われないと言う。
逆に小さい場合は動脈瘤を固めてしまう、コーティング術が行われることがあるそうだ。
もっとも高い頻度で行われるのはクリッピング術だと言われている。
これは、動脈瘤の根元を金属製の極小洗濯バサミ(テレビ出演の医師の表現による)で摘まみ、こぶの部分に血液がいかないようにする技法だ。
摘ままれた動脈瘤は時間経過とともに小さくなり、消えてしまうそうである。
クリッピング術は動脈瘤破裂によるくも膜下出血発生の予防措置として使われることもある。
くも膜下出血の治療に要する期間は?
よく言われることに「くも膜下出血は、何度も発作が繰り返される」つまり、再発の可能性を示唆するものがある。
残念ながら、これは単なるうわさではなく、動脈瘤を塞がずに放置しておくと30パーセント近い人が再出血すると言われている。
死の危険のあるくも膜下出血を放置するなどと言うことがあるのかと思われる方もおられるかもしれないが、発作が軽い場合、単なる頭痛等と誤認されて治療が行われないことがあるようだ。
このような場合、大きな発作が起きて、くも膜下出血だとわかった時には、うてる手が殆どなくなってしまうと言う結末を迎えることもあると言う。
このような事情から発作後数年は、定期的に脳の画像を取って、経過を観察する必要があると言われている。
くも膜下出血の予後(病状がこれからどうなるかの見通し)は、出血があった部位、出血の規模、機序となった疾患、選択された手術法、当事者の体力などに左右される。
あまり直視したくない現実だが、処置により命を取り留めても、意識が戻らず、病院のベッドで一生を過ごす患者さんも少なくないと言われている。
幸運にも発作が起こっても軽症で済み、意識を取り戻した人でも、治療に半月以上かかるそうだ。
入院が1月以上にわたることも少なくないそうなので、長くかかりそうな場合は、リハビリテーション専門病院や療養型病床の備えがある病院への転院を考慮する必要がある。
訪問看護や医師の往診が可能な地域ならば、急性期を脱したら自宅療養することも視野に入れられる。
いざと言う時、どんな手段をとる心算にせよ、今無事な人は常日頃から健診を受けくも膜下出血にならないこと以上の対応策は見当たらないのである。
くも膜下出血の医療費は?
有事の時の備えは、無事な時にしておくもの。
ここで少しもし、自分や家族がくも膜下出血になったらどうするか、シュミレーションしてみて頂きたい。どんなことが気になるであろうか。
もし筆者ならば、自分が倒れたことを誰に連絡してもらうか、もし脳死になったらどうしたいか、仕事先にはどう知らせるか、どのクラスの医療を受けたいか(たとえば、名医に執刀してもらいたい、いや、そのあたりの普通の医師で良い等)長く家を空けるもしくは2度と帰れなくなったら、今使っている部屋をどうするかなどを考えるかと思う。
もっとも気になるのは、自分が倒れている間のお金のことだ。
くも膜下出血になったら働けない。
働けないのは当人ばかりではなく、看護にあたる家族も仕事の時間を大きく削られてしまう。
入院費はどうしよう、差額ベッド代は。もしかしたら自宅をバリアフリーにする必要があるかもしれない。
車いすをレンタルしなければならないかもしれない。
と、まあ、こんな塩梅に病人には結構な額のお金が必要である。
くも膜下出血の場合、さまざまな控除を使っても、医療費が30万円を超えてしまうことがあるそうだ。
仮に治療すれば後の状態がよい病気であっても、お金の問題で治療を諦めてしまっては本末転倒だ。
民間の任意保険に入っていれば、入院給付金が出るので加入をお勧めするが、それらの備えがなく、お金に困ったときには、病院のソーシャルワーカーが相談に乗ってくれると言うことを頭の片隅においておくとよいかもしれない。
また、どうしようもなく困ったら、自治体の窓口に駆け込めば何とかなることもある。
何よりも予防に力を入れて倒れないのが最良の策であることは言うまでもない。